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最高裁判所大法廷 昭和24年(れ)1881号 判決 1954年1月20日

主文

原判決中被告人の関係部分を破棄する。

被告人を懲役三年に処する。

理由

被告人の上告趣意第一点について。

原判決挙示の証拠によれば、被告人が強盗をしようとして原審相被告人等と共に原判決第四摘示の強盗予備の行為をした事実は十分これを認めることができる。故に強盗の意思がなかったとの主張は理由がなく、又予備罪には中止未遂の観念を容れる余地のないものであるから、被告人の所為は中止未遂であるとの主張も亦採ることを得ない。

同第二点、第三点について。

所論は、原判決に法令の違反があることを主張するものではなく、寛大な判決を望むというに帰し、刑訴応急措置法一三条二項により上告適法の理由とならない。

弁護人日下謙吾の上告趣意第二点について。

被告人が幼児小児麻痺を患い手足が不自由であることは、原審公判調書でこれをうかがうことができる。しかし小児麻痺を患ったからといって必ずしも常に心神耗弱の状態にあるということはできず、又本件記録を精査するも被告人が犯行当時心神耗弱の状態にあったのではないかと疑わしめるような事跡はなく又被告人、弁護人から被告人は心神耗弱であると主張された事実も見当らない。かかる場合には必ず専門家をして被告人の精神状態を鑑定させなければならないというものではないから原審が鑑定を命じなかったからといって、所論のような違法はない。

同第一点について

本件記録に徴すれば、被告人は第一審判決当時一八歳に満たない少年であって、第一審裁判所において懲役二年六月以上四年以下に処する旨の判決言渡を受け、この判決に対し被告人から控訴の申立をしたところ、原審裁判所は検察官からの控訴がないに拘らず、既に少年でなくなっていた被告人に対し、懲役四年に処する旨の判決を言渡したものであること所論のとおりである。旧刑訴四〇三条によれば、被告人の控訴をした事件及び被告人のために控訴が為された事件については、原判決の刑より重い刑を言渡すことはできないのであるが、被告人から控訴の申立があっただけで検察官からの控訴申立のない本件について、第一審判決の言渡した不定期刑の中間位である三年三月より重い懲役四年に処する旨言渡した原判決は、第一審判決の刑より重い刑を言渡したものといわなければならない。(昭和二三年(れ)第一〇三一号同二五年三月一五日言渡大法廷判決参照)原判決は旧刑訴四〇三条に違反するもので論旨は理由があり原判決はこの点において破棄を免れない。

よって、旧刑訴四四七条により原判決中被告人の関係部分を破棄し、同四四八条に則り更に判決をするのであるが、原審の確定した事実を法律に照らすと、原判決摘示の被告人の所為中、判示第四の点は刑法二三七条に、同第五の点は同法二三五条に、同第一〇の点は同法二三六条一項に各該当し、何れも共同正犯であるから同法六〇条を適用し、以上は、同法四五条前段の併合罪なので同法四七条本文、一〇条により、うち最も重い強盗罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役三年に処すべきものとする。

よって主文のとおり判決する。

この判決は弁護人の上告趣意第一点に対する後記裁判官島保、同河村又介、同栗山茂、同斎藤悠輔、同藤田八郎の少数意見を除く他の裁判官の一致した意見である。

裁判官島保の意見は、旧刑訴四〇三条の関係において、不定期刑と定期刑との軽重を比較するに当っては、現に言渡された不定期刑の短期を標準とし、これと現に言渡された定期刑とを比較対照すべきであることは、前記引用の大法廷判決中、島裁判官の反対意見に記載したとおりであり、従って、第一審判決の言渡した不定期刑の短期二年六月を超えて懲役四年の言渡をした原判決は旧刑訴四〇三条に違反し、本論旨は理由があるから原判決は破棄を免れないというのである。

裁判官河村又介の意見は、第一審判決当時少年であったがため不定期刑の言渡を受けた被告人が控訴を申立て、その後、少年でなくなった場合には第二審裁判所は、第一審判決の不定期刑の長期以下でその自ら妥当と信ずる刑を量定し、それが第一審判決の不定期刑の短期を超えたものであるならばそれを長期とし、第一審判決の不定期刑の短期を短期とする不定期刑を言渡すべきであることは、前期引用の大法廷判決中の長谷川裁判官、河村裁判官連名の反対意見に記載したとおりであり、従って原判決が懲役四年の定期刑を言渡したのは被告人が第一審判決で与えられた不定期刑の短期二年六月を以って刑期を満了するという可能性を奪ったもので、原判決はその限りにおいて、第一審の言渡した刑よりも重くなっているので、明らかに旧刑訴四〇三条に違反し、本論旨は理由があり原判決は破棄を免れないというのである。

裁判官栗山茂、同斎藤悠輔、同藤田八郎の反対意見(長期説)は、旧刑訴四〇三条の関係において、不定期刑と定期刑との軽重を比較するにあたっては、現に言渡された不定期刑の長期を標準とし、これを現に言渡された定期刑と比較対照すべきものであること、前記引用の大法廷判決中それぞれ栗山裁判官、斎藤裁判官(沢田裁判官と連名)、藤田裁判官の各補足意見(長期説)に記載したとおりであり、従って、第一審判決の言渡した不定期刑の長期(四年)と同一の刑を言渡した原判決は旧刑訴四〇三条に違反する違法はなく、論旨は理由がないから、本件上告は棄却すべきものであるというのである。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎)

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